「インボイス登録した方がいい?」小規模事業者の判断ポイント

1.インボイス登録、した方がいい?

「これから開業するのですが、インボイス登録は必要ですか?」
「売上が1,000万円以下でも、登録した方がいいのでしょうか?」

開業や会社設立を考えている方から、このようなご相談をいただくことがあります。

先に結論を言ってしまうと、インボイス登録をした方がいいかどうかは、人によって異なります。

例えば、

・主な売上先は会社なのか、一般のお客様なのか
・主要な取引先から登録を求められているのか
・現在、消費税の課税事業者なのか
・車や機械など、大きな買い物をする予定があるのか

といった事情によって、答えが変わるからです。

インボイス登録は、事業者であれば必ずしなければならないものではありません。

しかし、登録しなければ取引先へインボイスを発行できないため、取引先との関係によっては登録を前向きに検討した方がよい場合があります。

まずは、次のフローチャートで、ご自身がどこに当てはまるか確認してみてください。

もちろん、このフローチャートだけですべてのケースを判断できるわけではありません。

ただ、「自分は何を基準に考えればいいの?」という最初の整理には、役立つのではないかと思います!

それでは、そもそもインボイスとは何なのか、なぜ取引先から登録を求められるのか、順番に見ていきましょう!

2.そもそも、インボイスとは?

インボイスとは、簡単に言うと、登録番号や適用税率、消費税額など、一定の事項が記載された請求書や領収証のことです。

正式には「適格請求書」といいます。

「インボイス」という名前の特別な書類を、新しく作らなければならないわけではありません。

普段使っている請求書や領収証に、登録番号や税率ごとの消費税額など、必要な事項が記載されていれば、その書類がインボイスになります。

ただし、インボイスを発行できるのは、税務署へ申請し、インボイス発行事業者として登録を受けた事業者だけです。

登録を受けると、「T」から始まる登録番号が発行されます。

3.なぜインボイスが必要なの?

では、なぜ取引先はインボイスを必要とするのでしょうか。

その理由を理解するためには、消費税の「仕入税額控除」について知る必要があります。

少し難しそうな言葉ですが、仕組み自体はそれほど複雑ではありません!

例えば、ある事業者の売上にかかる消費税が10万円だったとします。

一方で、その商品を仕入れたり、事業の経費を支払ったりするときに、消費税を6万円支払っていたとします。

この場合、納付する消費税は、分かりやすく表すと次のようになります。

売上にかかる消費税10万円-仕入れや経費にかかる消費税6万円=納付する消費税4万円

このように、仕入れや経費で支払った消費税を、売上にかかる消費税から差し引くことを「仕入税額控除」といいます。

買手が仕入税額控除を受けるためには、原則として、帳簿とインボイスを保存する必要があります。

そのため、会社や個人事業主などの取引先から、

「インボイス登録をしていますか?」

「登録番号を教えてください」

と聞かれることがあるのです。

ただし、相手が事業者だからといって、必ずインボイスを必要とするわけではありません。

例えば、簡易課税制度を使って消費税を計算している事業者の場合、実際に支払った消費税を積み上げて計算しないため、取引先のインボイスが税額計算に直接影響しないこともあります。

そのため、フローチャートでも、

「主な売上先が事業者ですか?」

の次に、

「主要な取引先からインボイス番号の取得を求められていますか?」

という質問を置いています。

4.主な売上先は、事業者?一般のお客様?

インボイス登録を考えるうえで、まず確認したいのが、誰を相手に商売をしているかです。

主な売上先が会社や個人事業主の場合

例えば、

・建設業の下請け
・法人から仕事を受けるフリーランス
・会社へ商品を販売する卸売業
・法人向けのコンサルタント
・事業者向けにサービスを提供する仕事

などは、取引先が仕入税額控除を行う可能性があります。

主要な取引先からインボイス番号の取得を求められている場合には、今後の取引にも影響する可能性があるため、登録を前向きに検討した方がよいでしょう。

ただし、「取引先から言われたから、すぐに登録しよう!」と決めるのではなく、登録した場合にいくら消費税を納めることになるのかも確認しておく必要があります。

主な売上先が一般のお客様の場合

一方で、

・一般のお客様が中心の飲食店
・美容室
・個人向けの小売店
・一般家庭向けのサービス業

などは、インボイスを求められる機会が比較的少ないと考えられます。

一般のお客様は消費税の申告をせず、仕入税額控除を受けることもないからです。

そのため、売上先のほとんどが一般のお客様で、現在は免税事業者という方は、今すぐ登録する必要性はそれほど高くないかもしれません。

ただし、同じ飲食店や小売店でも、法人利用が多い場合には事情が変わります。

業種名だけで判断せず、実際にどのようなお客様が多いのかを見ることが大切です。

5.すでに消費税の課税事業者である場合

一般的には、個人事業者であれば前々年、法人であれば原則として前々事業年度の課税売上高が1,000万円を超える場合に、消費税の課税事業者となります。

ただし、特定期間の売上高や給与等支払額、資本金、課税事業者を選択しているかどうかなどによっても判定が変わります。

したがって、

「売上が1,000万円以下だから、必ず免税事業者」とは限りません。

すでに課税事業者であれば、インボイス登録をしなくても、消費税の申告と納税は必要です。

そのため、免税事業者が登録する場合のように、

「登録したことで、新たに消費税の申告が始まる」

という違いはありません。

主な売上先が事業者であれば、取引先が仕入税額控除を受けられるよう、インボイス登録を前向きに検討しやすい立場といえます。

ただし、課税事業者であっても、インボイス登録自体が必ず義務となるわけではありません。

6.ここは要注意!インボイス登録をすると消費税の申告・納税が必要になります

ここは、今回の記事で特にお伝えしておきたい部分です。

現在、免税事業者である方がインボイス登録をすると、登録日から消費税の課税事業者になります。

売上が1,000万円以下であっても関係ありません。

インボイス発行事業者として登録している限り、基準期間や特定期間の売上高にかかわらず、消費税の申告が必要です。

つまり、

「インボイス番号だけを取得して、消費税はこれまでどおり申告しない」

ということはできないのです。

年の途中で登録した場合は?

例えば、個人事業者が41日からインボイス登録を受けた場合には、原則として41日から1231日までの取引について、消費税の申告が必要になります。

登録前の1月から3月までの取引については、原則として申告対象にはなりません。

ただし、課税期間の初日から登録を受けた場合や、新規開業者が課税期間の初日から登録を受ける場合などは、取扱いが異なります。

自分がいつから課税事業者になったのかは、必ず確認しておきましょう!

「消費税を別でもらっていない」場合も同じです

ここも、誤解されやすいところです。

例えば、これまで11万円で仕事をしていた方が、登録後も値段を変えずに11万円で請求したとします。

請求書に、

「本体価格10万円+消費税1万円」

と分けて書いていなくても、その11万円は原則として税込みの売上として扱われます。

「取引先から消費税を別にもらっていないから、消費税は納めなくていい」ということにはなりません。

これまで11万円がそのまま自分の収入になっていた方が、登録後も同じ11万円で仕事を続ける場合、その中から消費税を納めることになります。

登録後に値上げや価格交渉ができなければ、実質的な手取りが減る可能性があるということです。

よく起こりやすい「事故」

ケース「番号を取っただけ」のつもりだった

取引先から言われてインボイス登録をしたものの、

「売上は1,000万円以下だから、消費税の申告は必要ない」

と思い、申告をしなかったケースです。

しかし、インボイス登録を受けている以上、登録日以後の取引について消費税の確定申告が必要です。

ケース所得税の確定申告だけして安心してしまった

個人事業者の場合、所得税と消費税は別の申告です。

所得税の確定申告を提出しても、消費税の申告が自動的に済むわけではありません。

インボイス登録をした方は、所得税とは別に消費税の申告書を作成し、申告と納付を行う必要があります。

ケース登録したこと自体を忘れていた

開業準備の段階でインボイス登録をし、実際に事業を始めてからは、登録したことを意識しなくなってしまうケースも考えられます。

特に、開業時になんとなく出してしまった場合や、取引先からの案内に従って登録した場合には、

「自分がいつから課税事業者になったのか」

を確認しておくことが大切です。

申告期限を過ぎた場合には、本来納める消費税に加えて、無申告加算税や延滞税が生じる可能性があります。

登録を取り消せば、すぐ免税に戻れる?

「やっぱり必要なかった」と思っても、今日届出を提出して、明日から登録を取り消すことはできません。

登録の取消しには期限があり、提出の時期によっては、希望する課税期間から登録を取り消せないことがあります。

また、登録の方法や時期によっては、登録を取り消しても、一定期間は免税事業者に戻れない場合があります。

したがって、インボイス登録は、

「とりあえず番号だけ取っておこう!」

という感覚でする手続きではありません。

登録した場合の納税額、申告の手間、取引先への影響を確認したうえで判断しましょう!

7.消費税の納税資金は、別に残しておきましょう!

インボイス登録後に起こりやすいもう一つの問題が、納税するお金が残っていないというものです。

消費税は、売上が入金されたときに、その都度税務署へ納めるわけではありません。

多くの場合、1年分をまとめて申告・納付します。

そのため、売上として入ってきたお金をすべて仕入れや生活費に使ってしまうと、申告時期になってから、

「消費税を払うお金がない!」

ということになりかねません。

登録後は、売上の中に将来納める消費税が含まれていることを意識し、納税用の口座を分けるなど、計画的に資金を残しておくことをおすすめします。

8.車や機械など、大きな買い物をする予定がある場合

開業や会社設立の際には、まとまったお金が必要になることがあります。

例えば、

・営業用の車
・製造や工事に使う機械
・店舗の内装工事
・パソコンや事務用品
・開業時の商品仕入れ

などです。

このような支出には、通常、消費税が含まれています。

一般課税では、売上にかかる消費税よりも、仕入れや設備投資にかかる消費税の方が多ければ、消費税が還付される可能性があります。

建物や車、機械などの減価償却資産についても、原則として購入した課税期間に、その購入価額に含まれる消費税が仕入税額控除の対象となります。

ただし、

「大きな買い物をするなら、必ずインボイス登録をした方が得!」

というわけではありません。

実際には、

・どのくらいの売上が見込まれるか
・設備投資はいくらになるか
・いつ購入するか
・いつから課税事業者になるか
・一般課税と簡易課税のどちらを使うか

などによって結果が変わります。

簡易課税制度や一定の負担軽減措置を使う場合には、実際に支払った消費税を積み上げて計算しないため、設備投資による還付は通常生じません。

だからこそ、車や機械を購入してから考えるのではなく、

「購入する前に、登録した場合と登録しなかった場合の税額を比べてみる」

ことが大切なのです。

9.登録すると、ほかに何が変わるの?

インボイス登録をすると、取引先へインボイスを発行できるようになります。

一方で、次のような対応も必要になります。

・消費税の申告と納税
・登録番号などを記載した請求書や領収証の発行
・発行したインボイスの写しの保存
・返品や値引きがあった場合の対応
・消費税区分を意識した帳簿付け

小規模事業者には、簡易課税制度や一定の負担軽減措置もあります。

ただし、これらは消費税の申告をしなくてよくなる制度ではありません。

税額の計算を簡単にしたり、納付額を軽減したりする制度です。

負担軽減措置を利用する場合でも、消費税の申告自体は必要です。

10.まとめ

インボイス登録をした方がよいかどうかは、売上が1,000万円を超えているかだけでは決まりません。

まず確認したいのは、

・主な売上先が事業者か、一般のお客様か
・主要な取引先から登録を求められているか
・現在、課税事業者か免税事業者か
・車や機械など、大きな買い物をする予定があるか
・登録した場合の消費税額はいくらになるか

という点です。

主な取引先から登録を求められている場合や、すでに課税事業者で事業者相手の取引が多い場合には、登録を前向きに検討した方がよいでしょう。

一方で、一般のお客様が中心で、取引先から登録を求められておらず、大きな設備投資の予定もない場合には、今すぐ登録する必要性はそれほど高くないかもしれません。

そして、最も注意していただきたいのが、

「インボイス登録をすると、売上が1,000万円以下でも消費税の申告が必要になる」

という点です。

「番号を取るだけ」と思って登録し、申告や納税を忘れてしまうと、後から消費税だけでなく、加算税や延滞税まで発生する可能性があります。

大切なのは

「みんな登録しているから」

「取引先に言われたから」

という理由だけで決めないことです。

登録した場合としなかった場合の税額や事務負担を比べて、ご自身の事業に合った選択をしましょう!

11.主な根拠条文・参考資料

消費税法第9
小規模事業者に係る納税義務の免除

消費税法第30
仕入税額控除

消費税法第57条の2
適格請求書発行事業者の登録

消費税法第57条の4
適格請求書発行事業者の義務

国税庁「インボイス制度について」

国税庁「新規開業者向けページ」

国税庁「消費税及び地方消費税の申告等」

国税庁「インボイス発行事業者の登録をやめようとするときは」

※インボイス登録の有利・不利は、実際の売上、経費、取引先、設備投資の内容などによって異なります。具体的な判断については、登録する前に税理士などの専門家へご相談ください。

 

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