
個人事業主として開業したら何を出す?開業時に必要な届出・手続き

前回の記事では、「会社員・副業から独立する前にまず考えたいこと|仕事・需要・資金を確認しよう」として、独立する前に考えておきたいことについて書きました。
今回は、実際に個人事業主として独立することを決めた後に必要となる手続きのうち、税務署などへ提出する主な書類について見ていきたいと思います。
開業時にはいろいろな書類が出てきますが、すべての人が同じ書類を提出するわけではありません。
必ず提出するもの、基本的には提出しておいた方がよいもの、該当する場合だけ提出するものなどがありますので、それぞれどのような役割を持っているのかを簡単に整理していきます。
1.開業時、税務署に提出する主な書類とその役割
⑴ 開業届(必ず出す)
開業届とは、新たに個人事業を始めたことを税務署に届け出るための書類で、正式名称を「個人事業の開業・廃業等届出書」といいます。
開業した場合には提出することが所得税法上定められています(所得税法229条)。
ただし、開業届を提出したからといって、その事業から得た所得が自動的に「事業所得」になるわけではありません。反対に、開業届を提出していないことだけを理由に事業所得ではなくなるわけでもありません。
どのような申告をすることになるかは、実際の事業活動の内容によって判断されます。
令和8年1月1日以後に開業した場合、開業届の提出期限は、その年分の所得税の確定申告期限までとなっています。
また、開業届は、事業用口座の開設や各種制度の手続きなどで、事業を始めたことを示す資料として使用することがあります。提出した開業届の写しや、e-Taxで提出した場合の受信通知などは保管しておくとよいでしょう。
税金の計算そのものに大きく影響する書類ではありませんが、法律上提出することとされている書類ですので、開業したら忘れずに提出しておきましょう。
⑵ 青色申告承認申請書(出すべき)
「青色申告」という言葉は、お聞きになったことがある方も多いと思います。
「青色申告承認申請書」は、その青色申告の承認を受けるための申請書です。
青色申告者にはさまざまな特典がありますが、その一つが「青色申告特別控除」です。一定の要件を満たすことで、所得金額から55万円(さらに一定の要件を満たす場合は65万円)または10万円を控除することができます。
事業所得として継続的に事業を行うのであれば、基本的には提出しておくことをおすすめします。
特に注意したいのが提出期限です。
原則としてその年の3月15日まで、1月16日以後に新たに開業した場合は開業の日から2か月以内に提出する必要があります。期限を過ぎてしまうと、その年について青色申告をすることができません。
開業時には忘れずに検討しておきたい書類です。
⑶ 給与支払事務所等の開設届出書(該当する場合は必ず出す)
個人事業主であっても、従業員を雇ったり、後述する青色事業専従者に給与を支払ったりすることがあります。
そのように給与等の支払いを始める場合には、「給与支払事務所等の開設届出書」を提出する必要があります。
給与を支払うようになると、所得税の源泉徴収(いわゆる所得税の天引き)や年末調整、給与支払報告書の作成など、給与に関するさまざまな事務が発生します。また、支払いの内容によっては法定調書の作成・提出が必要となる場合もあります。
なお、これらの義務は、この届出書を提出したから発生するものではありません。実際に給与等を支払うことによって発生するものです。
従業員等に給与を支払う場合には、給与計算だけでなく、その後にどのような手続きが必要になるのかも確認しておきましょう。
⑷ 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(提出を検討する)
給与等から天引きした源泉所得税は、原則として給与などを支払った月の翌月10日までに納付する必要があります。
しかし、給与の支給人員が常時10人未満の場合には、「源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書」を提出することで、一定の源泉所得税について半年分をまとめて納付することができます。
納期限は、1月から6月までに徴収した分が7月10日、7月から12月までに徴収した分が翌年1月20日です。
「毎月納付するのは煩わしい」という場合には、提出を検討してよいと思います。
一方で、半年に一度になることで、かえって納付そのものを忘れてしまうこともあります。
「半年に一度だと忘れてしまいそうだなあ」という場合は、無理にこの特例を利用する必要はありません。毎月納付してしまう方が管理しやすい方もいらっしゃると思います。
⑸ 青色事業専従者給与に関する届出書(該当する場合は必ず出す)
個人事業では、生計を一にする配偶者や親族に給与を支払った場合、その給与は原則として必要経費にすることができません。
ただし、青色申告者が一定の要件を満たす家族を「青色事業専従者」として、この届出書を期限までに提出した場合には、その家族に支払った給与を必要経費にすることができます。
家族に事業を手伝ってもらい、給与を支払う場合には検討が必要な書類です。
ただし、この届出書を出せば、いくら給与を支払っても必要経費になるわけではありません。
実際にはほとんど仕事をしていない家族に給与を支払ったり、仕事の内容に比べて過大な給与を支払ったりした場合には、税務調査で必要経費として認められない可能性があります。
給与を支払う場合には、実際の仕事内容や勤務時間などを踏まえた適正な金額にする必要があります。
⑹ インボイス登録申請書(提出を検討する)
いわゆる「インボイス番号」を取得するための申請書で、正式名称を「適格請求書発行事業者の登録申請書」といいます。
登録を受けることで、適格請求書発行事業者としてインボイスを発行できるようになります。
一方で、本来は消費税の免税事業者となる方でも、インボイス登録を受けると消費税の課税事業者となり、消費税の申告が必要となります。
そのため、「開業したらとりあえずインボイス登録をしておけばよい」というものではありません。
取引先がどのような相手なのか、今後どのくらいの売上が見込まれるのかなどを考えたうえで判断する必要があります。
インボイス登録をした方がよいかどうかについては、別の記事「『インボイス登録した方がいい?』小規模事業者の判断ポイント」で詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
なお、税務署へ提出する書類には、このほかにも棚卸資産の評価方法や減価償却資産の償却方法、消費税の課税事業者を選択する場合の届出などがあります。
ただし、すべての開業者が提出を検討するものではありませんので、今回は開業時に特に確認しておきたい主な書類に絞ってご紹介しています。
2.税務署以外にも必要となる手続き
開業時に必要となる手続きは、税務署への届出だけではありません。
事業の内容や従業員の有無などによって、次のような手続きが必要になる場合があります。
⑴ 都道府県などへの事業開始の届出
自治体によっては、個人事業を開始したことについて、都道府県税事務所などへの届出が必要となります。
たとえば愛知県では、事業を開始した場合、管轄の県税事務所へ「開業(廃業)報告書」を提出することとされています。
名称や提出期限などは自治体によって異なりますので、開業する地域の自治体で確認しておきましょう。
⑵ 従業員を雇う場合の労働保険・雇用保険関係の手続き
従業員を雇用する場合には、労働保険や雇用保険について、労働基準監督署やハローワークなどで手続きが必要となる場合があります。
税務署への給与関係の届出だけで終わりではありませんので注意しましょう。
⑶ 社会保険の加入手続き
事業の種類や従業員数などによっては、健康保険や厚生年金保険への加入手続きが必要となる場合があります。
社会保険については税務とは制度が異なりますので、必要に応じて年金事務所などへ確認しましょう。
また、会社員を退職して個人事業主になる場合には、ご自身の健康保険や年金についても切替えが必要になることがあります。
⑷ 業種ごとの許認可
事業によっては、そもそも事業を始めるために許可や届出が必要となるものがあります。
たとえば飲食業、建設業、古物商などです。
こちらも業種によって必要な手続きや要件が大きく異なりますので、ご自身が始める事業に許認可が必要かどうかは、開業前に確認しておきましょう。
3.まとめ
いかがでしたでしょうか。
個人事業主として開業するにあたり、「提出しなければならない書類はこんなに多いのか」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
ただ、一つ一つの書類を見ると、記載する内容そのものはそれほど難しいものではありません。
難しいのは、むしろ「自分の場合にはどの書類が必要なのか」を判断することだと思います。
開業届は提出する、青色申告承認申請書は基本的には提出しておいた方がよい。一方で、給与関係の届出は従業員や家族に給与を支払う場合だけ、インボイス登録については事業の状況に応じて判断する、といったように、それぞれの書類には役割があります。
大切なのは、書類の名前を覚えることではなく、「何のための書類なのか」「自分の場合は提出する必要があるのか」を理解することです。
税務署で聞いたり、インターネットやAIで調べたりすることで個々の手続きについて知ることはできますが、それらを自分の状況に当てはめて判断するのは意外と難しいものです。
開業時の手続きについてご不安な点がありましたら、税理士に相談することもご検討ください。
