
「会社員・副業から独立する前にまず考えたいこと|仕事・需要・資金を確認しよう」

1.「何を、誰に、いくらで売るのか」を考える
事業とは平たく言えば、「誰かに何かを売る」ことです。
売るものは、食べ物やアパレル製品のようなモノだけに限りません。専門的な知識や労働力など、サービスとして提供する「何か」も含まれます。まずは、その「売り物」が何なのかを考えることから独立開業は始まります。
そして、ターゲットとなる顧客層を想定することが「誰に」ということになります。さらに、お客様に選んでもらいながら、自分の事業や生活も成り立つ価格を考える必要があります。価格が高すぎれば売れませんし、低すぎれば仕事が増えても生活が成り立ちません。
このように、独立開業の入り口は、「何を、誰に、いくらで売るのか」を考えることです。
最初から完璧な計画を作る必要はありません。まずは、「何を」「誰に」「いくらで」売るのかをメモに取ったり、頭の中で思い浮かべたりして、アイデアを少しずつ具体化していきます。
例えば、「デザインができる」だけではまだ曖昧です。
「開業する飲食店に向けて、ロゴやメニュー表を作る」という段階まで具体化して、初めて誰に何を売るのかが見えてきます。
2.その事業には、本当に需要があるのか
次に、具体化した商品やサービスを実際に販売したとき、本当に需要があるのかを考える必要があります。
例えば、会社員が独立を考えているとき、取引先から、
「〇〇さんが独立したら仕事を振るよ!」
と言われたり、友人から、
「お店を始めたら通うね!」
と言ってもらえたりすることがあります。
もちろん、その言葉が本気である場合もあれば、社交辞令である場合もあるでしょう。しかし、生活をかけて独立開業をするのであれば、その言葉だけで需要があると判断することはできません。
実際にお金を払って商品やサービスを購入してくれる人がいるのかを、できる限り確認する必要があります。
具体的には、
・同じサービスを提供している事業者を調べる
・競合の料金や顧客層を見る
・見込み客に困りごとを聞く
・副業として実際に販売してみる
・問い合わせやリピートがあるか確認する
といったリサーチが必要です。
競合がいることは、必ずしも悪いことではありません。すでにお金を払っているお客様がいるという意味では、需要が存在する証拠にもなります。
反対に、ご自身では「画期的なアイデアだ!」と思い、誰もやっていないからチャンスだと考えていたものの、単にお金を払う人がいなかった、ということもあるかもしれません。
3.事業として成り立つのかを数字で考える
次に、考えている事業計画が達成可能かどうかを、数字で考える必要があります。
1.「何を、誰に、いくらで売るのか」の項でも触れましたが、需要があって売上を得られたとしても、利益が残らなければ事業は続きません。
ここでは、単純な売上だけではなく、
売上-事業にかかる経費=利益(儲け)
という順番で考えます。
独立後は、この利益をもとに税金や社会保険料の負担も考え、最終的に生活のためにいくら使えるのかを確認する必要があります。
具体的には、次のような点を考えてみましょう。
・1件あたりの売上はいくらか
・1件をこなすために何時間かかるか
・材料費や外注費はいくらかかるか
・毎月何件の依頼が必要か
・自分一人でその件数をこなせるか
・お客様を獲得するための費用はいくらか
・一度利用したお客様から継続的に依頼があるか
会社員時代の手取り給与と比較する場合には、事業の売上そのものと比べても意味がありません。売上から経費を差し引いた利益を計算し、さらに所得税、住民税、社会保険料などの負担も考慮したうえで、生活のためにいくら残るのかを考える必要があります。
会社員として月30万円の手取り給与を受け取っていたからといって、独立後に月30万円を売り上げれば、同じ生活ができるわけではありません。
また、独立後に負担する税金には、所得税や住民税のほか、場合によっては消費税もあります。
「個人事業主でも消費税を払うの?」
と思われる方もいらっしゃるかもしれません。
売上が少ない場合でも、インボイス登録をしたときなどは、消費税の申告・納税が必要になる場合があります。
この点については、別記事「『インボイス登録した方がいい?』小規模事業者の判断ポイント」をご覧ください。
4.創業計画を立ててみる
独立開業を考えている方の多くは、何らかの目標や夢を持っていると思います。
私は事務所の性格上、独立開業を目指すお客様とご面談をさせていただく機会が多いのですが、やはり多くの皆様が高いレベルでのモチベーションを持たれており、とてもワクワクされているように感じます。
ただ、少しだけ前のめりになってしまう、という点では注意が必要で、一度立ち止まり、その計画を少し離れたところから俯瞰してみる、ということも大切です。
前の項でお伝えした売上や経費などの数字面についても、具体化する必要があるのはこれまで述べてきた通りです。
その方法の一つとして、日本政策金融公庫の「創業計画書」を書いてみるのも一つの手段です。
創業計画書は、日本政策金融公庫で創業時の融資を受ける場合などに事業計画を伝えるために使用する書類ですが、「取扱商品・サービス」「必要な資金と調達方法」「事業の見通し」などを記入することで、「事業として成り立つかどうか」を具体的に検討することができます。
極端な話ですが、ここで売上より経費が多ければ、少なくともその計画上は赤字からのスタートになります。仮に「軌道に乗るまでの赤字だから大丈夫」と考えるのであれば、それまでの資金をどうするのかについても考慮する必要があります。
その計画を立てるのに、この「創業計画書」は便利です。
さらに、創業融資が必要になった場合には、作成した計画をそのまま融資の相談にも活用できるという一石二鳥のツールとなります。
「取扱商品・サービス」「必要な資金と調達方法」「事業の見通し」の欄だけでも良いので、まずは事業を具体化するためのテンプレートとして利用してみるのがおすすめです。
その後、私を含めた税理士などに相談することで、「経費に漏れはないか」「数字が妥当であるか」などのチェックをしてもらうのも良いでしょう。
当事務所では無料でご相談を承っておりますし、日本政策金融公庫との連携もありますので、創業融資につなげることも可能です。
5.独立で得る自由と、自分で背負う責任
私もかつてそうでしたが、サラリーマンというのは、多かれ少なかれ組織に守られています。
私は税務、会計という面では、所属税理士時代から大きく仕事の内容が変化しているわけではありません。しかし、独立した現在は収入が保証されているわけではありません。
今いるお客様からの信頼を失えば、生活が成り立たなくなることもあります。その不安は、独立した今でも常に頭の片隅にあります。
ですので、独立のきっかけが、
・今の会社が合わない
・上司や人間関係がつらい
・自由に働きたい
・収入を増やしたい
というものでも、悪いわけではありません。
ただし、「会社を辞めたい理由」と「その事業が成り立つかどうか」は、分けて考える必要があります。
独立後は自由になる一方で、
・毎月の給与が保証されない
・営業や請求、経理も自分で行う
・休んでも売上が入るとは限らない
・仕事の責任をすべて自分で負う
という面もあります。
だからといって、「独立は大変だからやめましょう」という話ではありません。
自由になる部分と、自分で背負う部分。その両方を理解したうえで、独立するかどうかを選ぶことが大切です。
6.まとめ――手続きは、事業の見通しを確認してから
最後に、独立する前にまず確認したいポイントを整理します。
・その仕事に、お金を払ってくれるお客様がいるか
・必要な売上と利益を得られるか
・事業と生活を続けるための資金があるか
開業届や青色申告などの手続きも必要ですが、手続きをしただけで仕事が生まれるわけではありません。
独立を勘だけで決めるのではなく、自分の事業を一度数字にしてみることが大切です。
数字にしてみて厳しい部分が見つかったとしても、それだけで独立を断念する必要はありません。
副業の期間を延ばしたり、初期費用を抑えたり、事業の内容や価格を見直したりすることで、独立しやすい形に変えることもできます。
独立を具体的に決めた後に必要となる開業手続きや税金については、別の記事で解説します。
